公正証書とは、作成のメリット

わざわざお金を掛けて公正証書を作成するメリット(利点)は、次のようなものが考えられます。

1.高い証拠力

これまでは多くの日本人の傾向として、表立った争いごとを避けてきました。「まぁまぁ、その内に」ということで問題解決を先送りにしてきたのです。しかし最近では、譲り合いが少なくなり、権利だけを主張する世の中となりつつあります。話し合いが付かなければ裁判ということです。今後、日本もアメリカなどのように訴訟社会となるでしょう。その前兆が弁護士の増員です。

裁判で一番大切なのは証拠です。権利を主張する者がその証拠を提出する義務があります。例えば、お金を貸した、返したという争いであれば、契約書や領収書を証拠として提出する必要があります。しかし、契約書や領収書は後から偽造することも可能です。よって、私文書(私製の書類)は証拠力が低いということになります。反対に証拠力が高いのが、役所などが作った公文書です。そして、公文書の一つとされるのが公正証書です。公正証書とは、公証人という公務員が作成した公文書なので証拠力が高いのです。偽造の可能性は皆無と言ってよいでしょう。それだけ公正証書は厳重な手続でもって作成されているという裏付があります。

つまり、公正証書で借用書を作成しておけば、裁判所で借りた覚えはないとか、偽造されたのではないかという主張はできないのです。このように、証拠力が高いというのが、公正証書のメリットの一つです。

2.執行力がある

執行力とは、裁判所を通じて給料や預金などの差押え(強制執行)ができることです。例えばお金を貸したけど返してくれない人がいたとします。口頭や手紙で請求しても全く効果がない場合も多いでしょう。お金を全く持たず支払できないのであれば、多少諦めもつきます。しかし不良債務者になると、毎月給料はちゃんと貰っているのに、銀行に預金を持っているのに支払をしない者がたまにいます。このような人に対して、刃物で脅して無理やり給料を取り上げたり、銀行へ行って預金を強引に引き出させることはできません。また、自宅へ行って金目のテレビなどを了解もなく持ち出すことも同じです。これらは「自力救済」と言われ犯罪にもなります。

しかし前もって、公証役場で公正証書を作成して、手続(執行文の付与)をしておくと、このような差押えが直ちにできます。一々裁判などを起こす必要がないのです。もし公正証書ではなく、私製の契約書での金銭貸付をしていた場合には、差押えの手続が面倒です。支払がない場合は裁判所に訴訟を提起します。そして勝訴判決を得た後に判決が確定したら、ようやく差押えができるということになります。場合によっては、裁判を弁護士に依頼しなければならないでしょう。弁護士費用はびっくりするぐらい高いです。また判決まで日数も数か月掛かることは普通です。さらに勝てるかどうか不安となり、その間の精神的なストレスも相当なものでしょう。日数だけが経過している間に、他の債権者が先に回収してしまえば、こちらは何も差押え(回収)するものがなかったということも考えられます。債権回収では早い者勝ちだからです。

このように、執行力があるのが、公正証書のメリットの2つ目です。

3.安全である

公正証書を作成する場合は、事前に公証人が内容が法律等に違反していないかチェックします。つまり、作成された公正証書が法律に違反していたり、公序良俗(世間一般の常識)に反して無効になったりすることはほとんどありません。つまり安全だということです。一方、出費を惜しんで素人が作成した私文書は、法律に反していたりして、後から裁判などで無効とされる場合がよくあります。

一方、作成された公正証書は、原本(契約書そのもの)を公証役場で原則20年間保管します。よって、契約書や遺言を公正証書で作成した後、公正証書の控え(正本や謄本)を紛失した場合でも、その写し(謄本)をいつでも再発行してくれます。公証役場は銀行の貸金庫のように、公正証書を厳重に保管してくれるのです。貸金庫なら有料ですが、公証役場の保管料は要りません。このような意味でも、公正証書は安全であるということになります。これが、公正証書のメリットの3つ目です。